いちろんさんのでっころぼう (首人形)
駿州江尻の宿(入江の庄)に京都の去る武士の流れを汲んで、この地に住んでいる人形師に『市郎右衛門』と呼ばれるものがあった。市郎右衛門は張子ものが上手で、その上鬼に金棒と申しましょうか、似肖像を造るのが特に上手を通り越して名人であった。だから自然に祈願納め、為朝の似顔像を造るのに評判が高かった。笠かむりは何時の間にか変わって為朝の似首像を拝み、願叶ふ時は月見里稲荷へ御礼にこの似顔首像を納めに行くようになった。子供の夜泣きも止まった。いつかこれが近郷、近在の習慣となって市郎右衛門の木遇の坊が清水言葉の【いちろんさんのでっころぼう】と云われるようになったのである。ころ市郎右衛門と云う人は為朝の似顔首像の外、いろいろの首像を造った。大小二別があり小はその種類頗る多く武者もの、奴等の外、天神、鬼、天狗、鳥天狗、お多福、狐、猫、猿、河童等実に多種で串も長く出来もみな可愛くまとまっていて優秀品である。大型はその顔に徳川時代の匂いが濃厚に残っており、そぞろに懐かしいものである。昔は玩具と云うものが、あまりないので女の子も男の子も首人形に着物をきせて『デッコロ』と愛玩したものだそうである。

製作中の7代目人形師 故堀尾市郎右衛門さん


天神の首人形